2010年3月26日金曜日

Day55 メキシカンアート



メキシコ国立美術館に行ってきました。
メキシコの芸術には、メキシコ革命以前と以後とで大きな違いが見られます。
革命以前の作品はヨーロッパ的な宗教画や風景画が多く、宗教界がにはスペイン絵画の特徴が、風景画にはフランス写実主義やオランダ黄金期などの特徴がよく見られます。ヨーロッパの美術館でみる絵画と大して変わらないなというのが印象でした。

一方、革命以降の作品(1920年頃以降)はメキシコ独自のアイデンティティを絵画の中に見出そうとする姿勢がよく見られました。
描写のタッチこそ西洋の手法を用いているのですが、書かれているモチーフや色使いが中米的な印象を与えています。やはり西洋絵画をベースにしている作品がほとんどを占めている様子で、ゴーギャン的なタッチの作品やキュビズムを取り入れた作品、僕が敬愛しているシャガール先生(この人はぶっ飛んでいます)の作風を思わせるような作品が展示されていました。
※ここに思いっきり作品の写真を載せるのは気が引けるので、興味がある人はウェブアルバム「MexicoCity2010」を見てみてください。

革命以降のメキシコの画家として有名なのは、フリーダ・カーロディエゴ・リベラ、シケイロス、ルフィーノ・タマヨなどです。ちなみにフリーダ・カーロとディエゴ・リベラは夫婦だったそうです。ウェブアルバムにある画面手前に朽ちた舟が描かれている作品の空の描き方がすごくいいなと思いました。ディエゴ・リベラの作品です。骸骨人間がキュビズムのタッチで描かれている作品はルフィーノ・タマヨの作品です。ちなみにタマヨはタマヨでも男です。

また、これらの革命時代のメキシコの画家達はメキシコ壁画運動の画家としても有名です。1920年代から30年代にかけてメキシコではメキシコ人のアイデンティティについて考える文化運動のようなものが起こりました。当時はまだまだ識字率が低かったため、字の読めない庶民でもメキシコの歴史を理解できるよう、また一部の特権階級だけでなく、誰もが目にすることができるように、公共建造物の壁が画家達に解放されました。

メキシコには古代からこの地に住み着いていたメソアメリカのインディアンと、侵略者のスペイン人、そしてスペイン人が連れてきた黒人奴隷の血が混ざり合って今のメキシコ人と呼ばれてる人達が形成されているので、彼らのアイデンティティはなんなのか、どこにアイデンティティを見出すべきなのか、ということが非常に難しい問題となっています。ティオティワカンやマヤ、アステカなどのインディアン文化を大切にするべきか、スペインによって持ち込まれたヨーロッパ的な文化を大切にするべきか、黒人奴隷と一緒に入ってきたアフリカの文化を大切にするべきか、大きな葛藤があったようです。侵略者のスペインを否定しようとしても、すでに自分の体の中にもスペインのDNAが混ざっているし、かといってインディアンの文化を捨てることもできず、当時のメキシコ人達はきっと苦しんだんじゃないかと思います。でも現代のメキシコ人は歴史は歴史として受け入れているらしく、スペインのことを毛嫌いしているわけでもなく、インディアンの誇りを失うわけでもなく、みんな穏やかに暮らしているような印象を持ちました。

ディエゴ・リベラはこのメキシコ壁画運動でもっとも成功した画家で、ニューヨークでも個展を開いたり、デトロイト美術館に壁画を提供したりと海外でも注目を集めた画家でした。メキシコシティ市内にはディエゴ・リベラ壁画館があり、ここに展示されている「アラメダ公園の日曜の午後の夢」という作品は非常に見ごたえのある作品でした。壁画の前にピアノが置かれていて(演奏はありませんでしたが)、壁画を一望できる場所にソファが設置されていて、座りながらのんびりこの巨大な壁画を鑑賞することができます。ここはオススメです。


ソカロと呼ばれる旧市街の中心地にある王宮の中の壁面にも巨大な壁画が描かれていて、メキシコの歴史や文化について説明しています。

メキシコのアートには単にお金持ちの道楽だとか、新しいアートの探求といった理由だけでなく、メキシコ人の民族アイデンティティの探求と復興を目的としたものが多く、そういう側面を意識しながら眺めると非常に奥深いものでした。

メキシコ、思ってた以上にかなり面白いです。

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